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東京高等裁判所 昭和54年(行ス)14号 決定 1980年2月19日

抗告人

田井光明

右代理人

新井章

大森典子

相手方

東京都知事

鈴木俊一

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。相手方が昭和五二年一二月二六日付で抗告人に対してした国民健康保険医の登録取消し及び療養取扱機関の申出受理取消しの各処分の効力は、本案判決の確定に至るまでこれを停止する。申立費用は、第一、二審とも相手方の負担とする。」というにあり、その抗告理由は、別紙記載のとおりである。

二当裁判所の判断

1  本件各処分に至る経緯は、原決定理由二に説示のとおり(ただし、原決定二枚目表四行目中「開設し」の下に「、同診療所につき」を加える。)であるから、これを引用する。

2  ところで、本件国民健康保険医の登録取消処分は、国民健康保険法四九条一号の規定に基づき、抗告人に同法四〇条に規定する療養の給付に関する準則に違反して診療録に不実の記載をした事実があるとしてされたものであり、また、本件療養取扱機関の申出受理取消処分は、同法四八条一号及び二号の規定に基づき、抗告人に右診療録不実記載の事実及び療養の給付に関する費用(以下「診療報酬」という。)の請求に関し不正請求をした事実があるとしてされたものであるところ、疎明によれば、抗告人が、昭和五二年二月から六月までの間に、別表記載の古川博一ほか二四名につき、診療の事実がないのに診療をしたかのように架空の事実を診療録に記載したり、又は実際の診療内容と異なる虚偽の事実を診療録に記載したりして診療録に不実の記載をし、かつ、右不実記載にかかる診療録に基づき、右古川博一ほか二四名につき、別表記載のとおり、診療の事実がないのに診療したかのようにしてした診療報酬の架空請求二二件、実際の診療内容と異なる診療をしたとしてした診療報酬の付掛請求(いわゆる水増し請求)一六件、合計三八件の診療報酬の不正請求をしたことを一応認めることができる。

抗告人は、本件各処分の理由とされたような診療録の不実記載及び診療報酬の不正請求の事実はほとんど存在せず、数例について単純な誤記載、誤請求が存在するにすぎないと主張するが、右診療録の不実記載及び診療報酬の不正請求の事実が認められることは前認定のとおりであり、その内容及び件数にかんがみれば、これらが単純な誤記載、誤請求によるものとは到底考えられない。

そして、右認定の診療録の不実記載及び診療報酬の不正請求の事実に照らすと、本件各処分は、処分の根拠たる事実を欠くものとはみえず、また、抗告人主張のような裁量の範囲の逸脱又は裁量権の濫用があるものと認めることもできない。

してみれば、本件は、行政事件訴訟法二五条三項にいう「本案について理由がないとみえるとき」にあたるものということができる。

3  よつて、本件効力停止の申立ては、その余の点について判断するまでもなく、理由がないものとして却下すべく、これと結論を同じくする原決定は結局相当であるから、本件抗告は失当として棄却することとし、抗告費用の負担については行政事件訴訟法七条の規定に基づき民事訴訟法九五条、八九条の例により、主文のとおり決定する。

(林信一 宮崎富哉 石井健吾)

診療報酬不正請求一覧表<省略>

抗告理由<省略>

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